野﨑洋光さんが考える
基本の調味料の使い方。
調味料を使う順番は
「さ・し・す・せ・そ」にこだわる必要はありません
これまでの4回でお伝えしてきましたが、修業時代を含め、料理長として「とく山」「分とく山」を切り盛りしながら、50年間ずっと料理についての研鑽を積んできた野﨑洋光さん。食材はもちろん、その食材を引き立てる調味料についても、調理場での経験や料理の試作、文献の調査などを通して見識を深めてきました。
今回は、和食料理人を代表する野﨑さんならではの、基本調味料の考え方を特別に教えていただきます。
「まず、料理を作るときに、調味料は『さ・し・す・せ・そ』の順番で入れましょう、と聞いたこと、ありますよね? でも、実は、順番はそんなに気にしなくていいんですよ」
え? そうなんですか? と思わず驚いた取材陣。
「さ」は砂糖、「し」は塩、「す」が酢、「せ」がしょうゆ、「そ」はみそを表しているというのは皆さんよくご存じでしょう。そして、食材には「さ・し・す・せ・そ」の順番で調味料を加えていくと、味のしみ込みがよくなり、おいしく仕上がると一般的に言われていて、取材陣もそう信じておりました。
「少し理科系の話になりますが、砂糖というのは分子が大きく、塩は分子が小さい。そのため、塩を先に加えると、食材に塩の分子が入り込んで、後から加えた砂糖の分子は入り込めないから甘みがつきにくい、なんて言われています。でも、実際には塩を先に入れても味に影響はないですし、私たち料理人や料理屋では、調味料を事前にまぜておいて一度に加えることが多いですから、実は入れる順番というのは気にしてないんです。しいていえば、煮物にしょうゆを早い段階で入れてしまうと煮汁がにごって味がすっきりしなかったり、みそも早くから加えると風味が飛んでしまう。そういうことには気を配りますけどね」
だから、「さ・し・す・せ・そ」の順番を守るよりは、それぞれの調味料の特性を知って使うことが大切、と野﨑さんは語ります。
「砂糖」と「みりん」
どちらも甘みをつける調味料ですが使い勝手は違います
「甘みを足したいとき、ふだんは上白糖を使うことが多いと思いますが、ほかの砂糖を使うと甘みの違いを感じませんか。例えば、氷砂糖やグラニュー糖はすっきりしていて甘みが控えめ、黒砂糖は甘みを強く感じる方が多いのではないでしょうか。でも、意外かもしれませんが、実際の甘さ自体はそんなに違いはないんです」
違いは「ミネラル分」にあると、野﨑さんはおっしゃいます。
「黒砂糖や三温糖などはミネラル分が多いんですね。うま味、苦み、渋みなどがあり、それがまざり合って、甘みが濃く感じられるんです。だから、料理にコクを出したいと思ったら、ミネラル分を多く含む砂糖を使うといいですよ」
でも、あんこを作る際、ミネラル分の多い砂糖を使うと、小豆の風味よりも砂糖の味がたってしまい、バランスが悪くなるということもあるそう。料理のレシピを考えるときには、どんな砂糖を使うか、ということも重要なポイントになるんですね。
そして、甘みを足したいときに使う調味料の代表は、砂糖とみりん。この2つを野﨑さんはどのように使い分けているのでしょうか。
「砂糖は、浸透圧の関係で食材をかたくする働きがあり、煮くずれを防ぐ一面もあります。ただし、みりんにはその働きはあまり期待できません。みりんは砂糖よりも甘みは控えめですが、醸造されているのでうま味が強いです。アルコール分を含むので風味づけにもなります。甘みを生かしてコクを出すなら砂糖を、うま味を加えて風味よく仕上げるならみりんが向く。家庭料理ではこれを基準に、使い分けてください」
「塩」には、こだわりはなくていい
「酢」は火を通してから使う
次に「塩」についてはいかがでしょうか。
「塩は、産地やメーカーなどにこだわって選んでいる方が多いかもしれません。でも、水に溶かしてしまったら、実はどの塩も味は同じなんです」
これについても、え?そうなんですか?と再び驚いた取材陣。
「僕は20年ほど前に、塩の成分表示を審査する委員会に入っていたことがあって、7種類の塩を使って、同じ条件でお吸い物を作り、食べ比べをしたことがあります。その委員会には学識者や料理人もいましたが、みんな7種の塩の味の違いはわからなかったんです」
塩によって、ミネラル分の配分は違う。でも、溶かしてしまえば味の違いはわからない程度のミネラル量なので、味つけだけを考えるなら、塩のブランドにこだわる必要はない、と野﨑さん。
「でも、調理法によって塩は変えたほうがいいですよね。例えば、鮎の塩焼き。さらさらとした塩を鮎にふると、むらなく全面につきますが、すぐに溶けて液だれしたような状態になります。これでは焼いてもきれいには仕上がりません。粒々の塩をふると溶けにくいから、香ばしくおいしい鮎の塩焼きができるんです」
塩は2~3種を常備しておくといいですが、家庭料理ではわざわざ高価な塩を使わなくてもよいのでは、と野﨑さんはおっしゃいます。
次は「酢」について。
「酢はツンとした酸味が舌をさしますよね。僕はもともと酢が苦手なので、より酸味を強く感じる方なのかもしれませんが、酢は火を通してアルコール分と一緒に強い酸味を飛ばしたほうが、味がまろやかになっておいしいと思います」
また、一般的によく出回っている穀物酢、米酢についても、野﨑さんはこう考えます。
「僕は、穀物酢のほうがすっきりしていておいしいと思います。米酢は、少しうま味が強すぎて味が複雑に感じます。現代は流通が発達し、食材もうま味がある新鮮なものが普通に出回っているので、わざわざ米酢を使う必要は少なくなっているのでは、と思っています」
「酒」は、臭み消しではなく、
捨て水と考えて
しょうゆは、濃口と薄口を常備
「酒は、臭み消しにも使うことがけっこうありますよね。でも、今の時代は新鮮なものが簡単に手に入りますから、昔ほど臭みが気になる食材がなくなってきました。だから僕は酒を臭み消しとしてはあまり使わないですね。酒にはうま味をプラスする役割があるので、味のバランスを考えて、汁物には全水分量の5%までを目安として酒を加えることがあります」
そして、野﨑さんが考える酒の一番の使い道は「捨て水として使うこと」。
「酒を煮物の煮汁に加えると、水よりも早く蒸発するから、煮物を早く煮上げることができます。煮る時間が短くなるから、煮くずれもしないんです」
酒は味つけに使うというよりは、うま味を加えながら火通りをよくするための液体と考えている野﨑さん。また、店頭で見かける「料理酒」には塩などが添加されているので、レシピに「酒」と書かれている場合は、そのまま飲むことができる日本酒を使うようにしてほしいとのこと。
次は「しょうゆ」について。
「一般的な濃口しょうゆは塩分15%、薄口しょうゆは塩分19%です。薄口というから塩分が低いと思っている方もいるかもしれませんが、実は薄口のほうが塩分が高いのです。色が淡いことから薄口と呼んでいます。濃口はうま味が強く、薄口は濃口に比べるとうま味は控えめですが、その分だしとの相性がいいんです」
だしが欠かせない和食料理店では、料理の仕上がりの色を美しくできることもあり、薄口しょうゆをよく使うのは当然のことだそう。
「東海地区でよく使われる『たまりじょうゆ』は、だしを使わなくてもいいくらい、うま味が強いです。ほかに、再仕込みしょうゆ、白じょうゆもありますが、家庭では濃口と薄口を常備していれば、どんな和食にも対応できると思います」
味噌は好みの味を見つけることが大事
味噌の味わいが堪能できる料理をご紹介します
最後は、「味噌」について。味噌は、大豆に米糀を使って作る「米みそ」、大豆に豆糀を使って作る「豆みそ」、大豆に麦糀を使って作る「麦みそ」の3つに大きく分けられます。
「特に、米みそは地域によって大豆と米糀の割合や熟成期間が違うので、味もうま味も色もいろんな種類があります。豆みそ、麦みそも製造元によって違いがある。だから、味噌と一口に言っても、種類も味も本当に豊富で、料理の幅が限りなく広がる。本当に楽しみがつきないんです」
味噌は、たくさんの種類の中から、自分の好みの味を見つけるのが一番、と語る野﨑さん。旅先でもその土地の味噌を必ず購入し、味を確かめているのだそう。
「今回は、味噌の本当のおいしさが堪能できる料理をご紹介します。味つけは、味噌だけでなく、味噌のおいしさを引き立ててくれる調味料を合わせています。まろやかなうま味の味噌には塩けのあるチーズが合う。また、白みそには、トマトケチャップが味も色もなじみやすい。そんなふうに、味噌の違いを意識して、ぜひ作って食べてみてください」
味噌については、今回では語りつくせませんので、次回以降に詳しくお話をうかがうことにします。どうぞお楽しみに。
じゃがいものチーズ味噌田楽
材料(4人分)
-
- チーズ味噌
- 味噌(おすすめは「出雲みそ」)
30g
- 粉チーズ
30g
-
- じゃがいも……2個
-
- 揚げ油……適量
作り方
①味噌と粉チーズはボウルに入れ、よくまぜ合わせる。
②じゃがいもは皮をむいて1㎝厚さに四角く一口大に切る。鍋に揚げ油を170℃に熱し、じゃがいもを入れ、やわらかくなるまで素揚げし、油をきる。
③2の表面に1を塗り、オーブントースターで味噌がこんがりするまで焼く。好みで串にさしても。
「じゃがいものチーズ味噌田楽」に
おすすめの蔵乃屋の味噌
出雲みそ
「じゃがいものチーズ味噌田楽」で、味噌はコクを出しておいしさを引き立ててくれます。
城下町松江に誕生した山陰を代表する家庭の味。風味のよい味噌で、ぜひこの料理を作ってみてください。
鶏肉のソテー トマト味噌のせ
材料(4人分)
-
- <玉味噌>
- 味噌(おすすめは「京都白みそ」)
200g
- 卵黄
1個分
- 砂糖
50g
- みりん、酒
各大さじ2
-
トマトケチャップ、水……各大さじ1
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- 鶏もも肉……1枚
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- サラダ油……適量
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- 細ねぎの小口切り……適量
作り方
①玉味噌を作る。鍋に玉味噌の材料をすべて入れ、へらでよくまぜ合わせる。弱火にかけ、絶えずへらでまぜながら5分ほど練るようにして火を入れていく。卵黄に火が入り、ぽってりしてきたら火をとめ、常温まで冷ます。
②トマト味噌を作る。玉味噌30g、トマトケチャップ、水をよくまぜ合わせる。
③フライパンにサラダ油をひいて鶏肉を皮目を下にして入れ、弱めの中火にかけて10分ほど焼く。脂が出てきたらキッチンペーパーでふきとり、上下を返してさらに5分ほど焼き、身の厚い部分に竹ぐしをさしてみて、透明な汁が出てきたらバットにとりだす。
④皮目に2を塗り、フライパンに戻して味噌が温まるまで火を通す。
⑤食べやすく切り分けて器に盛り、細ねぎをのせる。
※玉味噌は多くできるので、残った分は密閉容器に入れ、冷蔵で1週間保存できる。
「トマト味噌の鶏肉のソテー」
おすすめの蔵乃屋の味噌
京都白みそ
「トマト味噌の鶏肉のソテー」で、トマトケチャップとともにまったりとしたおいしさを叶えてくれるのが白みそです。
塩分が5%以下の関西風の甘みそで、ぜひこの料理を作ってみてください。