料理人 野﨑洋光

Vol.12おいしさは香りにあり

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器によって
香りも味も変わります

和食料理人として、料理を一番おいしい状態でお客さまにお出しすることを追求し続けてきた野﨑洋光さん。味だけでなく、香りも料理の仕上がりに重要な役割を持っていると語ります。

「同じ料理や飲み物でも、器によって香りが変わるって知っていますか。さらに、香りによって味も変わるんですよ」

例えばお酒を飲む方だったら、簡単に試せる方法があるそう。

「ワインはワイングラスで飲むからおいしいんです。猪口につぐと香りが飛んでしまい、酸味が立って無機質な味になっておいしくなくなります。ワイングラスに注ぐと、グラスの丸みの中でふくよかな香りが立ち、ワインの甘みやうま味を舌の上でころがせるような感覚があって、堪能できますよね」

一方、日本酒は一口ずつ自分の好きなタイミングで飲むので、香りをほどよく飛ばしながら飲める猪口という形状が適しているそう。

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「料理の器で言うと、料理屋では煮物や汁物などの椀物は、ふたをしてお出ししています。ふたで香りを閉じ込めるから、香りが凝縮しているんです。そして、ふたを開けると、香りがふわーっと立つ。もう、それだけでもおいしいって感じますよね」

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家庭でもふたつきの器があったら、汁物の際にぜひ使ってみてほしいそう。でも、そもそも家庭だからこそ香りを楽しみながら食べられる、と野﨑さんは話します。

家庭料理だからこそ、
作り立ての香りを楽しんでほしい

「家庭だと、香りを大切にして料理を作るのは難しいと思っていませんか。でも実は、店で作るよりも家庭料理のほうが無理なく香りを生かせるんですよ」

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それには、作り立てであることが重要だと野﨑さんは考えます。

「作り立てだと、湯気と一緒に香りが漂ったり、あえものやサラダなどでも野菜本来のフレッシュな香りを感じられたりしますよね。作り立てと、作ってから時間がたって食べるのとでは、味わいは全然違います。料理屋ではたくさんのお客さまにスムーズに料理をお出しするために、事前にある程度仕込んでおいて、お客さまに出す直前の仕上げの段階でひと手間かけて、香りを楽しんでもらう工夫をしています。でも、家庭料理では作り立てをすぐに食べられるのだから、そんな工夫は必要ないですよね。熱々のお味噌汁をお椀にすくって、そのままテーブルに運ぶ。それが家庭料理のいいところですね」

また、香りが豊かな食材を使ったり、だしの香りを生かしたりなどすれば、薄味にもなっていく、と語る野﨑さん。食材本来がもっている香りをじょうずに生かすことで、調理法も味つけもシンプルでよくなりますし、体に優しい料理になっていくのですね。

ところで、刺し身のような香りが立たない料理については、どう考えればよいのでしょうか。

「刺し身は、器に盛りつけた状態で香りを楽しむ料理ではないですね。かみしめて口の中で香りを楽しむ料理です。新鮮でないと臭みがあって、おいしくありません。だから、魚自体が新鮮なのはもちろんですが、刺し身は食べる直前に『引く』ことが重要なんです」

「刺し身を引く」とは、魚のさくなどを切り分けることを言います。食べる直前に切るということ、つまり、刺し身も作り立てがおいしいと野﨑さんは強調します。

「スーパーで買う刺し身も1切れずつ切ったものではなく、さくで買って家で切り分けたほうが断然おいしいと思いますよ」

また、あえものも前もってあえておくと、余分な汁けが出てきておいしさが半減するそう。やはり作り立てが一番、と野﨑さんは語ります。

食材の組み合わせ方で、
香りを楽しみます

「僕は、食材によってですが、香りと苦みは同じものとしてとらえることがよくあります。料理を考案するときに、肉や魚介のうま味に対して、どの苦みを合わせるかを考えるんです。牛肉にはわさびを合わせる人が多いようですが、僕はしょうがが一番合うと思います。牛肉はしょうがの苦み、香りとよく合うのです」

しょうがもおろし立てが特に香りが立つので、食べる直前にすりおろすのが基本。また、まぐろのトロもしょうががよく合い、まぐろの赤みはわさびが合うそう。既成概念にとらわれずに、いろいろと試してみてほしいと野﨑さんは語ります。

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「今回紹介している『さばの味噌煮』でも、合わせる苦み、香りを追求しました。味つけには豆味噌を使っています。豆味噌は長く発酵させているので、米味噌や麦味噌よりも香り自体は控えめですが、えぐみが強い。つまり、うま味が強いのです。そのえぐみに対して苦みを合わせてよりおいしくするのですが、今回はさばを使うこともあり、香りの強いしょうがとバジルの力を借りました。しょうがはすがすがしい苦みがあり、バジルは甘みの中にほのかな苦みがあります」

いろいろと試してこの組み合わせにたどりついたわけですが、プラスする苦み、香りは種類が違うものを組み合わせるとよりおいしくなる、と野﨑さんは考えます。

「どの苦み、香りを合わせるかは、僕は長年の経験でわかるようになってきました。皆さんがオリジナルで料理を作るときには、苦み、香りの種類が違うものを合わせるようにすると、うまくいくと思います。楽しみながらいろいろと合わせてみてください」

また、『さばの味噌煮』では、味噌を2回に分けて煮汁に加えています。最初に加えた味噌はさばに味をしみ込ませるため、仕上げに加える味噌は香りを楽しむためのものだそう。煮続けると味噌の香りが飛んでしまうので、仕上げのこのひと手間でよりおいしくなると野﨑さんは教えてくれました。

ごはんの香りと味噌汁の香り。
これが僕にとって最高の組み合わせ

「僕は、炊き立てのごはんの香りが大好きです。口に含んだときのあの芳しさは、日本人には最高の香りだと思っています。そして、ごはんの香りに、味噌の香りを合わせるのが、僕にとっての最高の食事なんです」

「終の食事は、炊き立てのごはんと、大根と油揚げの味噌汁がいい」と語るほど、その2つの香りが野﨑さんにはかけがえのないものになっているそう。

「おいしそう」と感じたら、どんな香りがするか意識してみてほしい。その香りを生かすように調理をすれば、おいしく作るのはそれほど難しくないんだ、と野﨑さんは話すのでした。

さばの味噌煮

さばの味噌煮

材料(4人分)

  • さば……小8切れ(200g)

  • 塩……少々

  • こんにゃく……1/3枚

  • ねぎ……1本

  • 煮汁

    • ごぼうのすりおろし……30g

    • 昆布(10㎝四方)……1枚

    • 酒、水……各100㎖

  • 豆味噌(おすすめは「(資)八丁味噌謹製 豆みそ」)……20g

  • 砂糖……15g

  • しょうがの薄切り……小1かけ分

  • バジル……適量

作り方

  1. さばは塩をふって20分ほどおき、さっと洗って水けをふきとる。魚焼きグリルで表面に焼き色がつくまで焼く。

  2. こんにゃくは1㎝厚さに切り、中央に縦に切り込みを入れて片端をくぐらせ、手綱にする。水からゆでて沸騰したらザルに上げて水けをきる。

  3. ねぎは3~4㎝長さで8つに切り分け、両端に3か所ほど切り目を入れる。

  4. 鍋に煮汁の材料、①、②、③を入れて火にかける。煮立ったらさばをいったんとり出し、豆味噌10g、砂糖を加えてまぜる。煮汁が半量ほどに煮詰まったらしょうが、残りの豆味噌を加え、さばを戻し入れ、さっと煮る。器に盛り、バジルをのせる。

「さばの味噌煮」に
おすすめの蔵乃屋の味噌

(資)八丁味噌謹製 豆みそ

(資)八丁味噌謹製 豆みそ

「さばの味噌煮」のおいしさの決め手は、味噌。大豆と塩のみを原料に木桶に仕込んで熟成させた豆みそは、うま味と渋みのある独特な風味が特徴です。この豆みそでぜひこの料理を作ってみてください。

『料理人 野﨑洋光』を観る

信州二十五割糀みそ 粒